有名な『マズローの欲求ピラミッド』(欲求の5段階)のことを知らない人はいませんよね。
簡単に説明すれば、人は....
・第1段階 生理的欲求
・第2段階 安全を求める欲求
・第3段階 所属と愛の欲求
・第4段階 自尊の欲求
・第5段階 自己実現の欲求
上記5つのレベルでの欲求を持ち、前段階の欲求が満たされると次段階の欲求を求めるという、よく知られた説。 なので、自己実現するにはその前段階すべての充足を必要とする。 ...とされています。しかしながらその後の研究で階層的な面については誤りであると示されています。たとえば飢えた芸術家の存在などがそうですよね。
そもそもマズローがこの心理学的な動機付けの研究を発表したころは、下記のような8種類もの階層を提唱していました。こうして比較してみるとマズローはかなり性善説側にたった研究者だったことが伺えます。
・生理的欲求:飢え、乾き、身体的快適さ
・安全の欲求:保護、安全、安定
・帰属の欲求:愛情、家族、友人、好意
・自尊の欲求:達成する、有能である、承認を得る、独立、地位
・学習の欲求:知る、理解する、知的に結びつける
・美 的 欲 求:対称性、秩序、美、均衡
・自己実現の欲求:自分自身の潜在能力、自己実現、至高体験を実現する
・超越の欲求:他者の潜在能力発揮を助ける
もしかすると今、この「マズローの欲求ピラミッド」に関する記事を読んでいる読者の方のなかには「ふ~む。このサイトの管理者はかなり心理学の学説に精通している人なんだな」と私を一瞬、尊敬しかかった方がいらっしゃるかもしれませんが、それは間違いです。ただ単に日経BP出版センターから発行された『アイデアの力』という本の一部を転記しているだけです。
私見ですが、人が人間たるクリエイティブな欲求について考えるとき、かねてから『マズローの欲求ピラミッド』には、他者の視線という要素が欠けていると思っていました。
ニートや老人が、人目を避けた生活を続けるとだんだん観た目を構わなくなる。
籠もりがちな主婦は所帯じみ、男のやもめ暮らしは部屋も本人もうす汚れていく
....ことからわかるように他者の視線というのは、もっとも基本的で人格形成上に『不可欠な要素/パワー』なのでは? と考えています。もっと端的に具体例をあげれば、アイドルがデビューしたばかりの時期より、人々の視線を集める絶頂期の方がキレイだということでしょうか?
生まれたばかりの赤ちゃんは嗅覚が最優先(食欲・生命維持のため)ですが、しばらくして目が見えるようになると人の顔に反応するようになります。さらに成長して、ことばを獲得するころには 徐々に見てもらえる喜びを認知するように変化してきます。小さな子どもが『見て見て!』っていいながら、できるようになったばかりの前転を何度も母親に見せることってあるでしょ? アレです。
また思春期のころは、やたら他者の視線を気にするようになります。
なので人が成長していくのと同じように、
欲求のレベルアップにも『他人からの視線』が不可欠なのではないでしょうか
アメリカにはそれをサルの子どもで実験した人がいます。 サルの子どもを飼育する際に一切の視線を遮断すると、エサや温度管理をどんなに気をつけていても子ザルは衰弱死していきます。なんだか後味の悪い実験ですが、わかる気がします。
デザインに関して<他者の視線>が果たす役割
みなさんは野生の動物写真やビデオ、テレビでの特集を観ていて不思議に思ったことはありませんか? どんなに距離を置いて撮影しても、動物たちは必ずカメラがある方向に注意を怠りません。まるで見られているのがわかっているみたいに。人によっては「誰かに見られている感覚があり、振り返ってみると見知らぬ人の視線が…」という経験をなされた方もいらっしゃるでしょう。つまり視線には、現在の科学や技術力では測定できない力が存在しているのかもしれません。
これもまた大人のアカゲザルで実験した人がいます。 どんなに姿を隠して観察しても(肉眼でもモニター越しでも) サルは見られていると血圧や脳波に反応があらわれるそうです。 さすがはアメリカの大学です。面白いこと、バカげたことを本気でやってくれます♪
美しいモデルの人たちも「見られている緊張感が美しさを保つ」といいますね。
これはデザインや企画書もそうなのです。 美しいデザインは沢山の人に見られるデザインでもあるけれど、見られることでさらに美しいという評価を得ていく。
つまり、見られることは研鑽であり、力を与えたり奪ったりもする
なので、もしあなたが『素晴らしいデザイン 美しいデザイン』を求めるなら、部屋でひとり寂しく自己満足でデザインするより、多くの視線に晒される経験ができる場所に進まなければクリエイタとして成長できない。 と、肝に銘じるべきでしょう。
ここからが、ちょっと面白い実験になります。あなたも考えてみてください。
・ある会社が売り上げ目標を達成した従業員に1000ドルの特別手当をあたえると
発表しました。従業員への提示方法は「マズローの欲求ピラミッド」にそって
3つ用意されています。
①1000ドルのもつ意味を考えてみてください。ずっと夢見ていた新車や
住宅リフォームの頭金が手に入るのです。
②あなたの銀行口座に1000ドルというお金があれば、どれだけ安心感が
増すか、よく考えてみてください。
③1000ドルのもつ意味を考えてみてください。あなたが会社の業績に対し
重要な役割を果たしていることを会社側が認めてくれているのです。
会社はムダなものに一円たりとも金を支払ったりしません。
上記の選択肢から個人的にひかれる提示方法はどれかを選んでくださいと問いかけると、たいていの人は3番目を選ぶでしょう。自尊心を満足させられるし、1や2に書かれたことは提示されなくてもカンタンに想像できるからです。
けれども「おや?」となるのはここからです。
もしあなたが仮に会社の経営者もしくは管理者だとして、従業員の労働意識を引き出すためにどれが一番効果があるかを会議にかけたときに選ぶのは、1(もしくは2)になるのではないでしょうか? 正直に想像してみてください。つまり自分を動機づけるときは自尊心なのに、他人を動機づけるときは頭金を選んでしまいがちです。
不思議なことですが、たいていの人は「自分はマズローの欲求ピラミッド/最上階」にいて、他者は底辺にいると思っています。多くの企業がおこなう販売報奨金のあり方がそれを証明しています。ここらあたりにPDCAを活用しない企業マーケティングの弱点があらわれるのでしょう。